そこの武官はティーンエイジャー(6−3/9)
- 2008/12/01(月) 17:53:26
そのとき耳をつんざく金属音、ハルバートはその頭を上げて屋上を睨み付ける。
突然現れたMWに、テロリストたちも慌てたらしい。むやみやたらに発砲していた。
龍平はメインモニターに映るテロリストを見ながら、サブマシンガンやアサルトライフル程度の火器ではダメージなど与えられないのにと、半ば同情を覚える。
「頭部機銃、スタンバイ!」
『FCS作動良好、ターゲット自動捕捉』
モニターに映るテロリストたちが次々に赤丸で囲まれるのを見て、龍平は右のトリガーを躊躇なく引き絞る。
頭部に搭載された七・六二ミリ機銃が容赦なく火を吹き、テロリストたちを無慈悲に撃ち抜いていく。
数人が屋上から転落した後、屋上からの攻撃が止んだ。
先ほど乗り越えた塀を跨いで、龍平は再び碧東中央高校の敷地に戻る。
レバーを操作し、つま先に僅かに力を込めると、ハルバートは勇ましく走り出した。
その駆動音はモーターの甲高い音と土を踏みしめる地鳴り以外はとても静かである。
あっという間に正面のグラウンドが見えた。
索敵レーダーに反応するまでもないのだろう、二機のMWはゆっくりと振り向く。
ハルバートは立ち止まり、敵を睨み付けた。
「警告する。直ちに機体を停止させ、オペレーターは投降せよ。抵抗する場合は実力を行使する」
外部スピーカーから鳴り響く龍平の声。
龍平はチラリと側面モニターを見る。
窓に貼り付いている生徒たちは一様に顔を見合わせている。その中には龍平と同じクラスの生徒もいた。
再び正面を見据えると、敵はその手に持つ巨大なサブマシンガンをハルバートに向けようとしていた。
龍平は反射的に左のレバーを倒す。ハルバートは左腕の防弾盾を構えた。
次の瞬間、壮絶な爆発音が響き閃光がメインモニターを白く染める。
敵のサブマシンガンが火を吹き、ハルバートの防弾盾を派手に殴り続けた。
複合装甲と衝撃吸収ジェルのサンドイッチ構造になっている防弾盾はその重量と引き替えに、対戦車ミサイルの直撃を一度は防ぐほどの防弾性能を有している。
携行火器による射撃では有効打を与えられる事はないと知ってはいても、タコ殴りにされるのは気分のいいものではない。龍平は苛つきながら右のレバーを操作する。
ハルバートは左腕で防弾盾を保持したまま、右手を腰へと伸ばす。
腰にマウントされたナイフ状の装備を手に取ると、射撃が止まる瞬間を狙って右腕を防弾盾の外に突き出す。
次の瞬間、グリップの先端に付いたボタンを親指で押し込む。
バネを弾く音が豪快に響き、次の瞬間ナイフの刃にあたる部分が勢いよく射出された。
ソビエト特殊部隊、スペツナズの隊員が使用したといわれる特殊ナイフ、スペツナズナイフの機構をそのままMWサイズにした代物だった。
飛び出したナイフの刃は弾丸並みのスピードで左側に立っていたMWの右脇に突き刺さる。
その刃は妙な格好をしていた。先端こそナイフ状に鋭いが、中程から丸みを帯びて分厚い形をしている。
次の瞬間、突き刺さった刃が閃光を放った。
猛烈な炎と衝撃波、肩のパーツを吹き飛ばし、MWは真横に吹き飛ぶ。
右腕はちぎれて、サブマシンガンを握りしめたままその場に落ち、トラックの荷台を押し潰していた。
対MW用の近接兵装、グレネードナイフが見事にその性能を発揮した瞬間だった。
間髪をおかず、ハルバートはグレネードナイフの柄を投げ捨て、防弾盾を構えたまま突撃する。
その突撃を、僚機を支えるのに気を取られたMWは避けられなかった。
重量のある盾ごと体当たりを食らい、もの凄い勢いで弾き飛ばされる。
着地の瞬間サッカーのゴールを粉砕し、右手のサブマシンガンも離してしまっていた。
「よっしゃ!」
龍平はハルバートの体勢を立て直しながら思わず叫んでいた。
とりあえず厄介な火器は封じた、次はどうする、龍平の身体は考えるよりも早く次の行動に移る。
メインモニターにはぎくしゃくとした動きで立ち上がる敵の姿が映っていた。
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そこの武官はティーンエイジャー(6−2/9)
- 2008/11/18(火) 18:16:58
奈緒子たちが昇降口の安全を確保し終えた頃、龍平は隣接する空き地にいた。
首尾よく塀を乗り越えた後、その場にいた碧東駐屯地所属で顔馴染みの士長に案内されて巨大なコンテナの前に立つ。
清涼飲料水のイラストが描かれているものの、龍平にはその大きさに覚えがあった。
「的場士長。こいつの中には五式が?」
「いえ。五式は駐屯地から動かせませんので、古舘一佐の指示でXMR−0Aが入ってます」
その言葉に龍平はその目を見開く。
「よりによって、ハルバートだと?」
龍平は傍らの的場を信じられないという顔で見つめる。
的場は龍平の三歳年上だったが、下士官としての立場のためだろうか、龍平の方が年上のようにも見える。
龍平はその中に納められているもの、奈緒子曰くの秘密兵器について考えながらタクティカルベストを脱ぎ捨てる。
MP5を的場に渡しながら、龍平は校舎の方に向き直る。
(せめて日付が変わる前にカタをつけたいな)
そう思いながら、龍平はコンテナの中に入る。
仮設の電灯に照らされたコンテナの中身、それは改めて確認するまでもなく軍用MWであった。
しかもそれは制式採用の五式ではなく、次期制式機種に内定したXMR−0A、通称ハルバートという最新鋭機だという。
まだ少数のEMD(技術・製造開発)試作機が東西の特殊作戦群でテスト運用が行われているに過ぎない、龍平でさえ一度試乗しただけのものだった。
主に野戦を想定した汎用機種の五式に対して、ハルバートは市街地戦闘に特化した性質の機種である。
それを考えると、今ここにこのスマートな最新鋭機が配置されるのも頷けない話ではない。
しかし機密性の高い機種をこんな場所に半ば置き去りにしていたことには動揺を禁じ得なかったのだが。
龍平はそんな思いを振り払いながら機体をよじ登り、胸の上に開いたコクピットハッチから中に潜り込む。
龍平はMWの操縦資格を持ち、その成績は隊内でも上から数えた方が早いほどである。
MW運用の専門部隊である特機大隊から、時折スカウトめいた話を持ちかけられることもあった。
五式と共通のコクピットレイアウト、慣れた手つきで龍平は起動の手順を踏む。
それでも逸る気持ちが正規の確認手順を端折らせた。
鈍い音と小さな電子音、MWの基本システムが起動したことを確認すると、スイッチを操作してハッチを閉じる。
正面モニターにはOSの起動と各種プロセスの動作を知らせるメッセージが素早く流れていった。
『XMR−0A、起動。コマンドをどうぞ』
女性の声を想起させる電子合成の声が、すべての初期プロセスの起動終了を知らせる。
五式のサポートAIシステムにも採用されているこの声は、有名なアイドル声優の声をサンプリングしたものだと聞いたことがあった。
龍平はなぜ軍の装備にアイドル声優の声なのだろうと不思議に思ったものだったが、今はなぜかその声が安心感を感じさせた。
「コンテナ展開、アーカイブモード解除。駆動モーメントをプリセット・アルファに設定。出力は戦闘機動モード」
『アーカイブモード、解除します。駆動モーメント、出力設定承認』
その声の後、外から鈍い音が響く。
コンテナがゆっくりと開かれ、メインモニターが星空を映し出した。
コンテナの展開が終わると、ハルバートは胎児のように屈めていた手足をゆっくりと伸ばす。
コンテナ収納のためのアーカイブモードが解除されたのを確認すると、龍平は慎重に手足を操作してハルバートの体を起こす。
素早く計器類をチェック、防弾盾を持って完全に立ち上がるとメインカメラを校舎に向ける。
二階や三階の窓には多数の生徒が貼り付き、音声を拾うまでもなく歓声を上げているのがわかった。
紺色と黒のスプリッター迷彩、フライトヘルメットの形に似た頭部、これまでのMWに比べると圧倒的にスマートな、正義の味方然としたスタイルはこんなシチュエーションでなくても歓声を集めるであろう格好良さだった。
「碧東ヒトサンより碧東HQ。ハルバートの起動完了。これより正面、敵MWを掃討する」
『碧東HQ了解。敵MWの機種不明につき、性能差に留意せよ』
「了解。なお、校舎裏側の警備手薄につき、突入部隊の展開を要請する」
龍平は返事をしながら、この世界で最も新しい第四世代MWに乗っていれば、どんな敵だろうと倒せるという自信に溢れていた。
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そこの武官はティーンエイジャー(6−1/9)
- 2008/11/07(金) 23:16:48
学年入り乱れた生徒たちで混雑する廊下を通りながら、龍平は窓の外を見る。
眼下には駐輪場のトタン屋根、テロリストの姿は見えない。
ガラスが割れてなくなっている窓を開けると、龍平は身を乗り出して上下を確認する。
「よし……やるか」
龍平はMP5を提げたスリングベルトを肩に掛け直すと、意を決して飛び降りた。
バコンと派手な音を立てて足下のトタンがひしゃげると、龍平はキョロキョロと周囲を見回しながらそこを飛び降りる。
直後にどこかから響く銃声、その弾丸はトタンを貫通して自転車に当たり、激しく火花を散らした。
「くそっ!」
龍平はその場から離れ、全速力で敷地の端を目指す。
激しい銃撃の音と共に、彼の背後を脅かす弾着。屋上から撃ち下ろされているようだ。
すでに日も暮れてサーチライトも校舎裏には届かない。
龍平は暗さで撃ち返すのもままならず、ただひたすらに死角を探して走る。
やっと見つけた備品倉庫、その陰に滑り込むと、容赦ない銃撃がそこに加えられる。
しばらくするとそれも終わり、再び静けさが戻ってきた。
(暗くなきゃ、死んでたな)
外の暗さと監視の薄さを見越して飛び出してみたが、廊下の照明は思いの外明るかった。
判断が遅れて駐輪場を離れていなければ、今頃自分はどうなっていただろう、龍平は背筋に冷たいものが走るのを感じる。
鼓動が落ち着くのを待ちながら再び周囲を窺い、監視がないのを確認してから龍平は塀によじ登った。
同じ頃、奈緒子と数名の男子は一階へと降りていた。
まずは昇降口を覗く。思いがけず誰もいない。
廊下をゆっくりと進む。
保健室、印刷室、事務室、人気はない。
奈緒子は不審に思いながら、拳銃を手に校長室の扉に手をかける。
ゆっくりと開くと、そこには一人の人影。
奈緒子は銃を向け、ゆっくりと歩み寄った。
「まっ、待ってくれ! 殺さないで!」
思いがけない悲鳴、奈緒子の後ろにいた男子が電気をつけると、そこには痩身の中年男が今にも泣き出しそうな顔で突っ立っていた。
「校長先生!?」
奈緒子が声をかけると、校長はヘナヘナとくずおれる。
その気弱そうな見た目通り、本当に気の弱い男であるらしい。
「先生、テロリストはどうしました? 先生!」
「たっ、体育館です。……多分」
奈緒子は校長を椅子に座らせて、手足に巻かれていた粘着テープを剥がす。
「でもなぜ体育館だとわかるんですか?」
「いえね、私、趣味で朝鮮語を勉強してまして。リーダーの言葉を聞いていたら、体育館と言ったような気がしたもので……」
思わぬところで思わぬ特技に出くわすものだと奈緒子は思った。
校長の力の抜けた声を聞いた他の生徒たちは、必死に笑いを噛み殺しているようだった。
奈緒子は後ろに立つ男子に向き直る。
「それじゃ、私たちは東昇降口を確保。火野三曹……じゃない、火野くんが外の安全を確保し次第、生徒を脱出させる」
「了解!」
男子のうち数名が来た道を走って引き返す。
残った数名に他の部屋の様子を確認するように告げると、奈緒子は物思いに耽る。
(なんで、私の前には敵が現れないんだろう……火野三曹ばかり……)
その顔に欲求不満の色が浮かんでいることに、本人は気付いていないようだった。
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そこの武官はティーンエイジャー(5−2/9)
- 2008/11/01(土) 00:49:30
三階からやってきた増援を階段の警戒に付け、龍平は寺戸とそれぞれの教室を回る。
一年生の生徒たちは皆、二年生もそうであったように自分の席に座らされていた。
それらを解放しながら、龍平は上での様子を寺戸に聞いた。
「四階が制圧されてたんで、屋上を制圧しようとしたんだが、生徒会長は生徒の安全確保が先とぬかしてな、結局バリケードの再構築と生徒の移動しかできんかった」
「まあ、人質の安全確保は大事だ。負傷者は?」
「二年、三年それぞれ軽傷者が数名、大したことはない」
死人は出ていない、そのことがわかって龍平は安堵する。
「後は一階とグラウンドを制圧しないとな。いくら上を制圧したって逃げられなきゃどうしようもない」
龍平はそう言いながら教室に入ってグラウンドを見る。
包囲部隊のサーチライトに照らされたグラウンドには二機の武装MW、その足下にいたはずのテロリストの姿が消えていた。
どこかに戦力を集めている、そう思った龍平は建物の配置を考える。
そのとき、腰の無線機がガリガリとノイズを走らせた。
『抵抗中の生徒に告ぐ。こちらは白頭の義士』
無線機から流れてきた声は、全校放送を行ったあの声だった。
恐らくはテロリストの親玉だろう、龍平は苦々しく思いながら無線機を手に取った。
『諸君等の抵抗により、我々も手痛い打撃を被った。高校生にしてはよくやったと誉めておこう。しかし我々はこれ以上容赦はしない。次は確実に殺す』
「こちら国防陸軍三等陸曹、火野龍平である。どこの阿呆か知らんが、そちらこそ武装解除して投降せよ」
『陸軍? ガキが、戯れ言も程々にしろ』
男の馬鹿にするような反応を聞いて、龍平はやはりなと溜息をつく。
国防軍においては、少年工科学校生徒を除く、十八歳未満の国防武官の存在は公にはされていない。
すなわち三曹の龍平も、三尉の奈緒子も公式には軍に存在しない存在なのである。
これら非正規武官の少年たちは一部の例外を除いて身寄りをなくした子供たちを軍が引き取り、将来の武官として育成する。
龍平もそんな中の一人なのだ。
『今から三十分やる。武装解除した上、生徒諸君は自分の教室へと戻り、代表者は投降せよ。制限時間が過ぎた後、指示に従っていない生徒の安全は保証しない』
ブツリと音を立てて無線は再び沈黙した。
龍平は舌打ちをしながら無線機を戻そうとして、もう一度持ち直す。
「碧東ヒトサンよりシラヌイ、オクレ」
もう一度奈緒子への通信を試みる。
「後ろにいるわよ」
思いがけないところから聞こえてきた奈緒子の声に、龍平はビクリと振り返る。
「見事に馬鹿にされてたわね」
「……言わんでください。それより、一階の制圧を頼みます」
「アレを取りに行くんでしょ?」
「グラウンドにいた連中がどこかに集結してるようです。MWを無力化すれば、退路を確保できます」
龍平は自然に直立不動の姿勢をとりながら、奈緒子に考えを具申する。
少し考えるそぶりを見せて、奈緒子は頷いた。
「わかった。早く行って、さっさと戻ってきて」
「了解です」
奈緒子はニコリと笑うと、寺戸に声をかけて二人で出ていった。
奈緒子の笑顔になぜか妙な安心感を覚えながら、龍平はもう一度無線機を手に取った。
「碧東ヒトサンより碧東HQ、オクレ」
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そこの武官はティーンエイジャー(5−1/9)
- 2008/10/12(日) 19:57:39
志願して武装した血気盛んな男子を引き連れ、奈緒子は慎重に階段を上っていた。
男子のほとんどが渡辺朱音の自称親衛隊であるというのが若干引っかかったが、この際貴重な戦力に文句は言っていられない。
踊り場までは難なく全員が上ることが出来た。
恐る恐る上の様子を窺うが、妙に静まり返っている。
奈緒子は男子たちに合図を送って前進を再開した。
階段を上りきり、壁伝いに慎重に歩きながら、屋上に続く階段の様子も確認する。
幸い見張りはいない。
思い切って角の向こうを覗き込むと、そこには意外な光景があった。
そこには三階で作ったのと同じような、机や椅子で作られたバリケードがあった。
「ウッ、動くな!」
突然の少女の声。
反射的に銃を構えた奈緒子だったが、バリケードの向こうでたくさんの銃口が覗いているのに気付いて銃を下ろす。
「私は二年生の坂口です。そちらは三年生の方ですか?」
「そうよ。D組の中尾です」
向こう側にいるのが敵ではないとわかって、奈緒子の肩から一気に力が抜けた。
奈緒子の専門は情報収集であって、本来この手の荒事は専門外なのだ。
「テロリストはどうしたんですか?」
「おまえらが下で暴れて、何人かが降りていったんで、俺たちも反乱を起こしたんだ。残ってた奴らはみんなでボコッて、便所に放り込んだよ」
向こう側の男子が誇らしげに語る。
「それじゃ、四階は生徒が制圧したんですね?」
「ええ。今はここと、反対の階段側にバリケード作って、教室に立てこもってるの。まだ屋上に何人かいるみたいだから」
中尾と名乗った女子は不安げに上を気にしながら言うと、深い溜息をつく。
彼女たちも疲れているのだろう。
「わかりました。それじゃ、私たちは屋上を制圧します。出来れば先輩方の中からも戦力を出していただいて、両側から挟撃したいんですが」
「ちょっと待って。今、生徒会長と話し合ってみるから」
中尾が廊下の奥に消えていく。
しばらくは待機か、そう思いながら奈緒子は壁にもたれ掛かった。
同じ頃、龍平はパイプを伝って二階のトイレに潜り込むことに成功していた。
トイレに人の気配がないのは幸いだった。
トイレを足早に通り抜け、入り口から外をそっと窺う。
階段の側に三人、黒づくめの男たちがその手に銃を持って待ちかまえている。
龍平はポケットに手を入れて中身を取り出す。
それは小さなヘアスプレーのような形をした筒、その先端には金属のリングが付いている。
打ち倒したテロリストの一人が持っていたのを失敬した物で、筒の部分に書かれた文字からそれが鎮圧用のスタングレネードであるとわかる。
龍平はリングに手を伸ばし、それを躊躇なく引き抜く。
そしてそれを階段の方に投げ、龍平は耳を塞いだ。
短い悲鳴、その直後スタングレネードは炸裂して強烈な光と音を放った。
光と音が収まる頃、龍平は拳銃を抜いてトイレから飛び出す。
うずくまりもがいている三人に躊躇なく引き金を引いた後、壁に身を潜めて様子を窺う。
チラリと見たテロリストの骸を見て、龍平は感覚が麻痺していくのを感じていた。
龍平は今日初めて生きている人間に向かって引き金を引いたのだ。
最初は己の身を守るのに必死で考えることはなかったが、三階で待機している間に改めて思い返すと、それがとても恐ろしいことだと気付いてしまう。
しかし、半ば暗示をかけるように自分を奮い立たせて二階に降りてきた。
無意識のうちに割り切れてしまったのだろうか、たった今の発砲は恐ろしいほどに冷静だった。
そのことをあれこれと考える時間はないようだった。
龍平の思惑通り、教室から数名の男が飛び出してくる。
MP5に持ち替えていた龍平は半身を壁から出して引き金を引くと、三発ずつ放たれる弾丸は先頭を走っていた男の体にすべて命中する。
教室の方から聞こえてくる悲鳴、男の体が後ろに飛ばされるのとほぼ同時に、別の男が持っていたスコーピオンの引き金を引く。
凄まじい連射音とともに、龍平が身を隠す壁の角をえぐり取った。
龍平は銃だけを壁から出してめくら撃ちを始める。
「ええいっ、くそっ!」
廊下の向こうの敵を気にしつつ、階段から顔を出すかもしれない敵にも神経を使わなければならない。
龍平は既に後悔していた。
こんなことなら一人で行くなどと言わず、奈緒子の隊と行動を共にすれば良かった、そう思いながらMP5の弾倉を交換する。
廊下の向こうの気配を窺うと、そこに人のいる気配はなかった。
撃ち返してくる様子もない。
(殺ったか?)
恐る恐る壁から顔を出すと、先ほど倒した一人を除いてテロリストの姿が見えない。
他に残るのは無数の空薬莢とガラスの破片。
龍平は警戒を解かず、腰に提げている小型無線機に手を伸ばす。
これもテロリストから失敬したものだ。
電源を入れると、ノイズだけが流れてくる。
周波数を切り替えると、何やら賑やかな声が聞こえてきた。
『ねえみーちゃん、聞いてる? みーちゃん!』
どうやらどこかにいる女子生徒らしい、さらにチャンネルを切り替えると、朝鮮語らしい野太い男の声が聞こえて、それはすぐに途切れた。
恐らくはテロリストが発した指示だろう。
龍平はあらかじめ申し合わせていた周波数に合わせて送信ボタンを押した。
「碧東ヒトサンよりシラヌイ、オクレ」
僅かな沈黙の後、スピーカーに僅かにノイズが乗った。
『こちらシラヌイ。状況知らせ』
それは奈緒子の声だった。
「二階にて交戦。射殺、四。他数名は逃走。打撃の程度は不明。四階の状況を伺いたい。オクレ」
『四階は既に三年生により制圧。現在生徒を三階に移動中。二階の制圧が完了次第、生徒を移したい。オクレ』
「了解。これより安全を確認する。武装要員を二階に配置されたい。オクレ」
『了解した。東階段より数名送る。通信終わり』
龍平は無線を腰に戻すと、深々と溜息をつく。
直後ドカドカと響く足音にビクリと体を震わせたが、それが上からのものだと気付いて緊張を解く。
直後姿を現したのが寺戸だと気付いて、龍平は思わず笑みをこぼした。
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そこの武官はティーンエイジャー(4−5/9)
- 2008/10/07(火) 20:03:39
「何が起こってる!」
頭上で響く銃撃の音、校長室は騒然としていた。
「生徒の一部が反乱を起こしました! 確認できただけでも五名死亡。三階は守りを固められています」
「ガキ相手に何をやっている。……とにかく、他の階の人員はこれ以上動かすな。反乱の拡大を防げ」
都市迷彩の男――先ほど全校放送で犯行声明をぶち上げた男はその顔にわずかに動揺の色を滲ませる。
そして窓から外の様子を見ながら、苛立つように靴を鳴らすのだった。
同じ頃。
「始まったか……」
西尾は椅子から立ち上がり、校舎を見ながら呟く。その横では警察部隊が慌てている。
「中隊長、あれは」
「火野三曹だろう。意外に早かったな」
「我々はどうしましょう」
若い武官はそわそわとしながら西尾に尋ねる。
西尾は少し考え、困った顔で帽子を被り直した。
「いつでも突入できるよう、各員に準備を。それと、別動班を例の物の準備に向かわせてくれ」
「了解!」
若い武官は敬礼をすると素早く仮設テントを出ていく。
「西尾三佐、これはどうなっているんです?」
その声は入れ違いに入ってきた州警察SITチームの警部のものだった。
「うちの潜入隊員が動き始めたようです」
「そんな。あんなに派手に動いては人質の安全が……」
「敵はおそらく油断しているでしょう。今はそれに賭けるしかない。我々はいつでも突入できるように準備を整えておく必要がありますな」
西尾の言葉に、警部は言葉を失ってしまうのだった。
最初の戦闘から三十分ほど経って。
三階は階段や廊下に机や椅子が積み上げられてバリケードが築かれていた。
テロリストからは武器が剥ぎ取られ、その武器を志願した屈強な男子生徒たちが持っている。
バリケードの構築作業の最中に流された噂によって彼らの士気は非常に高い。
少数の負傷した生徒や教師は一カ所に集められて手当てを受けていた。
防御態勢が整った頃、龍平は外の様子を窺いながらこれからのことを考えていた。
「火野三曹」
龍平が呼ばれて振り向くと、奈緒子がそこに立っていた。
反射的に気を付けをすると、龍平は敬礼をする。
奈緒子が答礼を返すと、龍平は直立不動の姿勢をとる。
「楽にして。今は上官として振る舞うつもりはないから」
「了解であります」
龍平は少し戸惑うように返事をして姿勢を崩す。
「私はこれから男子数名を連れて四階を制圧しに行くわ。あなたは下にいる連中の注意を引きつけて欲しいの」
「元よりそのつもりです」
「それと、出来るだけ速やかに校舎を離脱して、秘密兵器を取りに行くことね」
奈緒子の言葉に、龍平の眉根がぴくりと動く。
「秘密兵器?」
「とぼけないでよ。敷地外に用意された例のアレ、今使わないでいつ使うの? ……情報本部付きをナメちゃだめよ」
意地の悪い笑みを浮かべる奈緒子から視線を外して、龍平は考え込んでしまう。
(アレの存在を知ってるのか……)
そう思いながら、龍平は目の前にいる少女のことを薄気味悪く感じる。
「……了解です。しかし、連中が言っているロケットランチャーはどうします?」
「それはこちらでどうにかしないとね。ハッタリであることを祈りたいけど」
そう言って、奈緒子は腰に手をやってホルスターから拳銃を引き抜く。
弾倉を抜いて残弾を確認すると、それを戻して小さく溜息をつく。
「それじゃ、そろそろ行くわ。お互い、死なないようにしましょうね」
「はっ! ご武運を」
奈緒子は踵を返すと教室を出ていく。
龍平も机の上に置いていたMP5を手に取ると、スリングベルトで肩に提げた。
教室を出て、雑然としている廊下を歩いてトイレへと入る。
何も用を足すために入ったのではない。
一番奥まで行くと、ゆっくりと窓を開ける。
実はこの場所は建物の構造上、死角になるのだ。
外にせり出している柱が校庭側からの視界を遮り、校舎の隅なので監視も手薄であった。
おまけに、柱に沿って排水用のパイプが走っている。
これを伝って下のトイレへと行くつもりだった。
龍平は窓から顔を出して上下に監視がいないことを確認すると、そのまま窓の外へと身を乗り出した。
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そこの武官はティーンエイジャー(4−4/9)
- 2008/10/05(日) 00:42:04
「あっ、てめえ!」
いきなりテロリストと鉢合わせ。笑えないミスであったが、相手が高校生と油断してくれたのが幸いした。
テロリストは銃を構えるのが明らかに遅れる。龍平はその隙をついてMP5のトリガーを引き絞った。
瞬間放たれた三発の弾丸はテロリストの胴体に命中してその体を跳ね飛ばしていた。
その発砲音は当然ながら更なる増援を呼ぶ。
「だあぁ、畜生が!」
次々と教室から飛び出してくるテロリストに向かって龍平は容赦なくトリガーを引いて打ち倒す。
弾丸をすぐに使いきらないようにフルオートではなく三点バースト射撃にセレクターを合わせているものの、続々と現れるテロリストに弾丸が次々と減っていく。
背後からも軍用ブーツの足音が響く。龍平はそちらにも気を付けなければならなかった。
「誰か加勢しろや!」
龍平は教室の中から響く悲鳴に負けないくらいの大声で叫びながら、背後の階段へと走り出す。
対テロ訓練を受けている龍平も、たった一人で何人いるか判らないテロリストを相手にする想定での訓練は経験がなかった。
普通ならば二人から三人のグループで援護しあいながら戦うところを一人で戦わなくてはならないのだ。
階段を見上げると、三人のテロリストが階段を下りてくるところだった。
龍平はMP5のセレクターをフルオートに切り替えてトリガーを引き絞り三人まとめて倒すと、踵を返して廊下を全力疾走しながらトリガーを引く。
テロリストも撃ち返してきたが、その弾丸は見当違いのところに着弾して近くのガラスを粉々に砕いた。
龍平は全弾撃ち尽くしたのと同時に横っ飛びで教室に入ると、体制を立て直しながら弾倉を交換する。
再び廊下に出ると、妙なことになっていた。
龍平は発砲していないのにテロリストが勝手に撃たれているのだ。
最後の一人が倒れたとき、龍平は息を呑んだ。
そこにいたのは一人の女子生徒。その手には拳銃が握られ、その銃口は龍平の額をしっかりと捉えていた。
反射的にMP5の銃口を向けたが、その顔を見て龍平は銃を下ろす。
「坂口……奈緒子」
そう、その女子生徒は坂口奈緒子だった。
しかも彼女が持っている拳銃はテロリストのマカロフではなく、龍平が持つのと同じSIGザウエルP228だということにも気付く。
「人のフルネームを気安く呼ばないでちょうだい」
奈緒子は硬い表情のまま銃を下ろす。
「これ、おまえがやったのか?」
「ええ。それが何か?」
さも当然という口調の奈緒子の言葉に、龍平は唖然としてしまう。
「おまえ、一体何者だ」
「……国防省情報本部所属。三等陸尉、坂口奈緒子」
「なんだと!?」
そんな馬鹿な、龍平はそう思い愕然とする。
「坂口も、国防武官だってのか? ……しかも幹部」
「まさか、あなたが陸軍の……」
龍平は姿勢を正し、表情を引き締めて敬礼をする。
「西部特殊作戦群、緊急即応中隊所属。三等陸曹、火野龍平であります!」
「そう……ほら男子、さっさとバリケード作る! 女子は負傷者の確認と手当、急いで!」
奈緒子の声に恐る恐る出てきた生徒たちは言われたとおりの作業に取りかかっていた。
(さすがは幹部殿。いきなり仕切ってら)
龍平がそんなことを思っていると、奈緒子の厳しい視線が向けられた。
「火野三曹。あなたは自分のクラスの生徒に武装させて二階を制圧しなさい。私は男子を指揮して四階を制圧します」
「はっ。しかし素人を戦闘に参加させるのはいかがかと。現に武装させた生徒は援護もしてくれない有様で……」
「それもそうね。まずは三階の防備を固めましょう」
「了解です」
龍平は振り返ってB組まで戻る。
教室の中では皆恐る恐る廊下の様子を窺っていた。
「よしおまえら。机と椅子を廊下に出してバリケード作るぞ。他のクラスにも声かけて作業にかかってくれ。死にたくなければ急いでな」
最初は怪訝な顔をしていた生徒たちも、龍平の死にたくなければという言葉に慌てて作業に取りかかり始めた。
そんな中で龍平は肥山を捕まえる。
「なんだよ」
「血の気の多い奴を選んで武装させてくれないか。武器はテロリストから奪っていいから」
「……死体から剥ぎ取れってのか?」
確かに、気乗りのする話ではないだろう。
しかし龍平には他の有効な手段が思いつかなかった。
「非常事態だ。何とか頼む」
「でもいくら何でもやる奴いるかな?」
「テロリストが渡辺を辱めようとしたとでも言えば、やるんじゃねえか?」
その言葉に肥山は露骨に顔を引きつらせる。
「龍ちゃん……おまえ結構外道だな」
「今更、普通の高校生ぶるつもりはない」
龍平は少し寂しそうに呟くと、肥山の肩を叩いて歩き始める。
肥山はしょうがないという顔で、近くにいた数名の生徒に声をかけるのだった。
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そこの武官はティーンエイジャー(4−3/9)
- 2008/09/30(火) 19:52:06
廊下の様子を窺いつつ静かに教室を出た龍平は、ほふく前進で隣のA組へと近づく。
中からは生徒のものではない声が聞こえてきた。
よく聞いてみると、それが日本語ではないことが分かる。特徴的な語尾からそれが朝鮮語であると判るまでそれほど時間はかからなかった。
僅かに開いている扉の隙間から中を見ると、男が無線で誰かと話している。
生徒たちはB組と同じように自分の席に座らされているようだ。
(生徒さえいなきゃ、スタングレネードで一気に無力化するんだがな)
そう考えて、しかし今手元にスタングレネードがないことを残念に思いながら、龍平はどうするか考える。
そして壁に体を寄せると、コツコツと扉を叩いた。
「誰だ?」
中からは男の声がするが、龍平は当然答えない。返事の代わりにもう一度扉を叩いた。
「誰だと言ってるだろ!」
男の苛立った声に混じってジャキンと金属音が響く。
コツコツと近寄ってくる足音に沸き上がる恐怖感を抑えつけながら、龍平はMP5を構えた。
直後、教室の扉が勢いよく開け放たれた。
「誰だと言ってるだ……」
男は龍平の姿に気づいたのと同時に言葉を失った。
なぜなら、龍平は立ち上がり男の喉元に銃口を突きつけているからだ。
「はいそこまで。銃もらおうか?」
龍平は男が構えていたスコーピオンを奪い取ると、両手を頭の上に組んで後ろを向かせる。
そして教室に入ると、MP5のストック(銃床)で男の後頭部を殴って昏倒させた。
武装している龍平の姿を見たA組の生徒たちはどよめいた後、一瞬の間を置いて歓声を上げた。
「ば、バカタレ! 静かにしろっての」
龍平は慌てながら、先ほどB組でやったように男からタクティカルベストを剥ぎ取り、結束バンドで拘束する。
「この中で銃を扱える奴、いるか?」
龍平の問いに、一人の男子生徒がおずおずと手を挙げる。
「そのマシンガンならプサンで撃ったことある」
「よし。おまえこれ持ってろ。撃つとき以外は絶対トリガーに指かけんなよ」
龍平は押しつけるようにスコーピオンと予備弾倉を渡すと、近くにいたガタイのいい男子生徒にマカロフ拳銃とナイフを渡した。渡された途端に青ざめるところからして、見た目ほど肝が据わってはいないのかもしれない。
「火野! お、おまえは何をやっとるんだ」
そこにいたのは龍平の担任、川口だった。めがねが激しく破損した上に頬にはアザがある。
おそらくは龍平の足下に寝転がっている男が殴ったのだろう。
「非常事態につき独自の判断でテロリストに反抗しておりますが、何か?」
「何か、じゃねえだろ。おまえ自分が今何やっているかわかってるのか?」
「はっ。十分に理解しているつもりであります」
龍平は上官に接するかのように受け答えをしながら武器の選り分けると、数名の男子生徒を呼んで足下の男を掃除道具入れに放り込むように指示を出した。
「火野!」
「自分は対テロ戦闘の訓練を受けております。ご心配なく」
「おまえ……どうかしちまったんじゃないだろうな?」
川口は呆れ返るように言うと教卓の前に置かれた椅子に腰掛ける。
(そうか、この人俺が国防武官って知らないんだっけ)
龍平は大事なことを思い出すと、それと同時に邪魔だから眠らせてしまおうかなどと物騒な考えが浮かんでしまう。
さすがに担任教師を殴り倒すのはまずいと思い直したとき、どこかで銃声が響く。
その直後ドカドカと響く足音に、龍平はMP5のセイフティーを解除してそれを構えながら廊下に出た。
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そこの武官はティーンエイジャー(4−2/9)
- 2008/09/26(金) 13:29:12
そのころ、二年B組では早速アクシデントが発生していた。
「い、いや!」
「てめえ、朱音様に何やってんだゴラァ!」
「ボケが、いっぺん殺すぞカス!」
監視の男が朱音にちょっかいを出し始め、それが元で男子たちが一気に殺気立っていたのだ。
「うるせえガキども! 死にたくないなら黙って座ってろ!」
「死ぬのはどっちかな、朝鮮野郎」
男の首筋に突如として伝わる金属の冷たい感触。
男がそちらに目を遣ると、一人の男子生徒が拳銃を向けている。
その男子生徒は龍平だった。
あり得ない光景にその場にいた者すべてが呆気に取られる。
「てめえいつの間に……おもちゃで脅そうなんざ、いい度胸してるじゃねえか」
「おもちゃか、それとも本物か、試す勇気あるか?」
龍平はそう言って撃鉄を起こす。
その目はそれまで大人しく座っていた高校生の目ではなく、兵士のそれになっていた。
「死ねや、この腐れ外道がああぁ!」
突然あらぬ方向からの叫び声。その直後、寺戸が振り上げた椅子が男の頭へと振り落とされた。
「キャアッ!」
鈍い打撃音と朱音の短い悲鳴の後、男は呻き声を上げながら白目を剥いて昏倒する。
「ナイスアシスト」
龍平はくずおれる男を見ながら思わず呟き、拳銃の撃鉄を戻す。
「俺は朱音様に狼藉を働くのが許せなかっただけだ」
寺戸は鼻息荒く男を見下ろしていた。早速近くにいた男子生徒はそこに群がり蹴りを入れている。
龍平はそれを止めると素早く男のタクティカルベストを脱がし、腰のホルスターやナイフを奪い取る。
(拳銃はマカロフ……それにこりゃスペツナズナイフか?)
奪った装備を吟味しながら、どこからか取り出した結束バンドで男を拘束する。あまりに鮮やかな手際に生徒たちはその様子を見入っていた。
「よし。そいつ掃除道具入れにでも放り込んじまえ」
龍平の言葉に生徒たちは嬉々として男をかつぎ上げると、掃除道具入れの中身を引きずり出す。代わりに男を放り込むと、扉を閉めて机や椅子で塞いでしまう。
数名の男子生徒はぶちまけられたほうきやモップを手に取って危険な笑みを浮かべていた。
龍平は先ほどからの騒ぎに他から見張りが来ないかを気にしていたが、しばらく待ってもその気配がない。
龍平は男が持っていたスコーピオンを寺戸に、マカロフ自動拳銃を肥山に手渡す。二人はいきなり渡された本物の銃に腰が引けていた。
「火野くん」
龍平が振り向くと、ようやく落ち着きを取り戻したらしい朱音が彼を見上げていた。
「助けてくれて、ありがとう」
「俺は大したことしちゃいないさ。なぁ寺戸」
寺戸はいつもの龍平以上に不機嫌そうな顔をしていた。どうやら朱音が自分よりも龍平に声をかけたのが気に入らなかったらしい。
朱音が「龍平のついで」とは聞こえないように取り繕いながら寺戸にも礼を述べると、ようやく彼の仏頂面が解れた。
龍平はそんな様子を横目に見ながら、棚からスポーツバッグを引っ張りだして手近な机の上に置く。
置くと同時にガチャンとなにやら金属音が響いた。
ファスナーを開けて龍平が中に手を入れる。近くにいた生徒が中身を覗き込むと、その表情が瞬時に青ざめた。
中から出てきたのはサブマシンガン、ヘッケラー&コッホのMP5に、実弾が装填された予備弾倉が五本。他には先ほど龍平が見張りの男に向けたSIGザウエルP228自動拳銃の予備弾倉、当然これにも九ミリ弾が装填されていた。
さらに鞘に入ったコンバットナイフも出てきてこれも机の上に置かれる。
「おまえ学校に何しに来てんだよ?」
肥山は並べられている武器一式を見ながら唖然としている。
龍平が今触っているものは、普通の生徒から見ればテロリストのそれと何ら違いがないからだ。
そんな生徒の気持ちを無視するように龍平はブレザーを脱ぎ捨てると、先ほどまで見張りの男が着ていたタクティカルベストを着込む。
マガジンポーチに入れられていたスコーピオンやマカロフの予備弾倉はそれぞれ肥山と寺戸に渡され、代わりにスポーツバッグから取り出したものをそこに納める。
腰の拳銃用ホルスターにP228を納めると、MP5に弾倉を叩き込みボルトを操作して薬室に弾丸を送り込んだ。
その場にいる生徒たちがポカンと見つめる龍平は、もはや彼らと同じ高校生にはとても見えなかった。
「それじゃ、とりあえずA組を制圧してくるから。静かにしててくれな」
コンビニに買い物にでも行くかのような軽い口調は生徒たちをさらに唖然とさせた。
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そこの武官はティーンエイジャー(4−1/9)
- 2008/09/20(土) 18:42:45
学校占拠から三時間。
一人の男が校長室で優雅な時間を過ごしていた。
男は都市迷彩の戦闘服に身を包み、豪華な机の上にはAKS74アサルトライフルが置かれている。
「さて校長。我々はやむを得ずここに居座ることになった。申し訳ないが生徒諸君にはお付き合い願うよ」
校長と呼ばれた痩身の中年男はさらにその身を細らせていた。恐怖のあまり声も出ないといった様子だ。
「生徒諸君にもそのことを伝えなければならない。放送室に案内してもらおう」
そのとき机に置かれていた無線機が呼び出し音を鳴らした。
それに男は外国語で応じ、手短に通信を切った。
そのころ、二年B組の教室。
生徒たちは自分の席に座らされ、携帯電話を監視の男に没収されていた。
それ以上は特に何を要求するでもなく、男は煙草を吸いながら生徒から奪い取ったグラビア雑誌をニヤニヤと眺めていた。
龍平は隙を窺いながらも外の様子にも目を向けていた。
日が暮れ始めた学校の外には警察用MWの二式「ワルキューレ」装甲警備車、そして国防陸軍の制式MWである五式機動装甲戦闘車が校庭に立つMWと睨み合っていた。
「おお、警察の二式に国防軍の五式まで来てらぁ。すげえなぁ」
「そこうるさいぞ。静かにしろ!」
龍平の上げた声に、監視の男は教師のように注意する。
龍平は前に座っている肥山の背中をつつくと小声で話しかけた。
「敵の戦力はどれくらいだと思う?」
「どれくらいって……二十や三十はいるだろ」
各教室に一人ずつ見張りを置いているとして、三学年各六クラスなので十八名、MWのオペレーターが二名、校庭にも数名の人影が見える他、校長室と職員室も押さえられているだろう。
確かに最低でも三十名程度と見て間違いなさそうだった。
「まぁそんなところか……一人じゃ辛いな」
「龍ちゃん、何するつもりだよ」
そのとき、校内放送のスピーカーがゴトゴトと音を立て始めた。生徒たちはもちろん、監視の男までがそれに注目した。
『生徒並びに教職員諸君、および校外の警察及び国防軍に告ぐ。我々は白頭の義士。我々は明後日開催される世界外相会合の阻止を目的に当校を占拠した。よって、我々は明後日まで当校の生徒並びに教職員の身柄を預かる』
途端に教室中がざわめき、監視の男の怒号が響く。
『警察は手出しは出来ない。これは国防軍についても同じだ。我々はこの学校の生徒や教職員のみならず、碧東市民すべてを人質にしている。これはブラフではない。我々は特殊ロケットランチャーを装備している。このロケット弾の弾頭は、通常にあらず。もう一度言う。明後日の世界外相会合を中止せよ』
再びゴトゴトという音とともに放送は途切れた。
(碧東市民すべてとは、大きく出たな)
龍平はそう思いながら、外に展開している部隊がどう動くかを考えていた。
「いやはや、碧東市民すべてとは。大きく出たものですな」
校外放送を聞いた警察と国防軍は色めき立っていた。
そんな中で国防軍の西尾だけが落ち着き払ってコーヒーを飲んでいる。先ほどの言葉も西尾のものだった。
「西尾三佐、あんた何落ち着き払ってるんだ!」
州警察の現場指揮官は西尾の様子が勘に障ったらしい。青筋を浮かべながらテーブルを叩いて怒鳴り散らしていた。
「とはいえ、敵の正確な戦力がわからない上に、奴らの言う非通常弾頭が何なのか、わからないうちは動けますまい?」
「そ、それはそうだが……」
「まあ大方化学兵器の類でしょうが。奴らのことだからダーティーボムという手もある」
「奴らということは、奴らの正体が分かってるのか!?」
警察幹部は西尾に注目する。西尾はそれを気にする風でもなく校舎を見遣った。
「軍の情報網で世界外相会合を狙ったテロが起こる可能性ありとの情報を掴んでいました。今度の会合は朝鮮連邦への経済制裁が主な議題だ。その中止を要求するペクトの義士……ここまで言えばお分かりでしょう」
その場にいた警察官は皆戦慄した。
西尾は朝鮮連邦の軍事テロを示唆したのだ。
経済制裁の理由でもある核開発疑惑がある朝鮮連邦のこと、核廃棄物を搭載した弾頭「ダーティーボム」は十分に考えられる戦術ではあった。
「しかしご安心を。既に我々は随所に対テロ即応要員を配置していました。この高校にもね。しばらくは様子を見ましょう」
そうは言ってみたものの、西尾は一抹の不安を感じてもいたのだが、それはおくびにも出さず事態の推移を見守るのだった。
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